市長絶賛のサッカー場だが
飯能市阿須山中土地有効活用事業公募(※)で選定されたとされる最優秀提案事業者の事業計画のコンセプトは次の通り。
※市民向けの公募告知がなく、審査基準、プロセスに不公正不明瞭不自然な点が多く、随意契約が疑われる。
≪提案内容≫
「飯能の未来を託す子どもの育成環境整備と地方創生のためのシティプロモーションの実現」
・サッカー強豪クラブである「ボカ・ジュニアーズ(アルゼンチン)」の育成プログラムを取り入れたトレーニング施設を設置し、世界に通用する選手を飯能から輩出
・市内外からプロサッカー選手を目指すキッズ、ジュニア、ユース世代の選手を迎え入れ、交流人口を増加
・再生エネルギー利活用等の太陽光発電ソーラーパネルの設置やサッカーグラウンドの整備を行い、その施設等の維持管理などで新たな雇用を創出
・ボカ・ジュニアーズを通じたアルゼンチンとの友好関係の構築、観光、物産、人的交流の流れを創出
・メガ・ソーラーによる売電収入を、世界的サッカークラブライセンスと連携したスポーツ施設・育成プログラムの設置、構築、運営に活用する地方創生モデルスキーム
この計画案の中心は、事業関係者曰く、「いずれはJ3規格を満たすグラウンドに」(※)という将来性あふれるユースクラブ専用サッカー場であるが、実態は次の通りである。この開発計画は、民間事業者が進めているが、飯能市は関係する許認可のみならず、全体の進行管理を担っている。
※都市計画法上、工期ずれのある計画も一体工事と見なされるため当初計画にないこのような計画は違法となる可能性がある。
・面積は開発許可が必要な1haのギリギリで0.97ha。法面と通路含めると1ha越えのウルトラC級の工夫が許可権者兼指南役の飯能市にあるのだろう。フィールドは80m x 115m。しかし、この外周はほどんど余裕なく、コンクリート製の最大30度の切り立った法面(造成斜面)が迫る。
・通常のサッカー場で存在する次の設備を持たない。上下水道、脱衣所、シャワー室、常設トイレ、控え室、観客席、駐車場。仮設トイレ、飲料のための自販機は設置。
・もっとも奇異なのは、サッカー周辺のソーラー発電所の雨水を一手に引き受ける調整池を兼用しているということ。
ここで起こり得ること
この調整池兼用サッカー場は、200mm(事業者公表値)まで耐える。
10倍の面積のソーラー発電所からの雨水を2mまでため込む機能は、直近を流れる唐沢川の急激な水位上昇を防止するため。森林破壊により喪失した保水性を人為的に補う構造。
機能上、降雨が続く限り雨水をため込み続ける。排水は、一定以上の水位にならないと行われない。
近年、歴史的大雨が多発し、毎年のように大規模な水害が発生、甚大な被害が報告されている。このサッカー場で危惧されるのは集中豪雨での被害である。
危険性を示すもっとも簡単な計算式「降雨量 X 10(調整対象面積倍数)」で見てみよう。
用いるのは、国内歴代ランキング10分間最大降雨量のデータである。
国内歴代10分間最大降雨量(2020年7月25日現在)
ランク | 都県名 | 地域名 | mm | 年月日 | |
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1 | 埼玉県 | 熊谷 | 50.0 | 2020年6月6日 | |
1 | 新潟県 | 室谷 | 50.0 | 2011年7月26日 | |
3 | 高知県 | 清水 | 49.0 | 1946年9月13日 | |
4 | 宮城県 | 石巻 | 40.5 | 1983年7月24日 | |
5 | 埼玉県 | 秩父 | 39.6 | 1952年7月4日 | |
6 | 兵庫県 | 柏原 | 39.5 | 2014年6月12日 | |
7 | 兵庫県 | 洲本 | 39.2 | 1949年9月2日 | |
8 | 神奈川県 | 横浜 | 39.0 | 1995年6月20日 | |
9 | 東京都 | 練馬 | 38.5 | 2018年8月27日 | |
10 | 新潟県 | 寺泊 | 40.6 | 2019年8月15日 |
10位以内に飯能市阿須山中と同じ関東平野に属し、かつ、近隣に所在する埼玉県の熊谷、秩父、東京都練馬の3カ所がある。
この3カ所の10分間最大降雨量の平均値42.7mm。この10倍は427mm。
このサッカー場では10分間で42センチを超える可能性がある。
大雨でこのサッカー場には土砂、枝葉なども流入し、濁流となる。排水口は目詰まりし、あふれるのではないか。ここで主に活動する15歳以下の未成年者では水位30cmでも十分に溺れる可能性がある。
さらに、唯一の避難路は斜度30度で壁のように立ちはだかる、狭い。視界が悪く、叩きつける雨の中、数十人の子供がここに殺到する。将棋倒しによる死傷事故の予防措置はあるのか。
飯能市の大久保勝市長は、市民団体に対して「50年、100年に一度のことを考えたら何もできない」と言った。現在、歴史的大雨が普通化している。一自治体を預かる市長として、極めて無責任な発言である。